第8回 『ジェーン・エア』
監督:ロバート・スティーヴンソン
主演:ジョーン・フォンテーン、オーソン・ウエルズ
1944年製作
ジェーン・エアは、何度も映画化されていますが、オーソン・ウエルズが主演しているこの映画は、今回始めて見ました。エリザベス・テイラーが可憐な子役で出ているのには、驚きました。
サディスティックともいえる慈善学校で、ほとんど虐待を受けて育てられた女性ジェーン・エアが、やがて『家庭教師』となり、ここでも周りから差別を受けながらも、最後まで愛を貫くという物語で、霧の中に浮かび上がる古い館、優しい魂を隠した偏屈な主人、開かずの間に秘められた謎、館に、夜な夜な響く悲鳴という風に、道具たてがそろっています。これぞイギリスという感じです。開かずの間に、人間を隠しておくというのは、このころ本当にあったのでしょう。またジェーンが育った学校は、作者のシャーロット・ブロンテが育てられた学校がモデルだそうですが、あまりにも異常です。本当に子供が肺炎で死んでしまったそうです。
この映画では、物静かななかに、自立した心を秘めたジェーン・エアをジョーン・フォンテーンが演じていますが、あまりにも控えめな感じです。それに対して、彼女を愛する館の主人、ロチェスターを演じるオーソン・ウエルズの演技がものすごい迫力で、圧倒されます。しかし、この対比的な演出は、物語のキーともなるもので、必要なものだったのでしょう。
まったく社会的な背景、名家の生まれでもなければ、金持ちの生まれでもない、しかも家族すら持たない孤児の女性が、自分の純粋さだけで、恋に落ち、さらには結婚するというのは、当時のイギリスとしては、非常に反響を呼ぶべき題材だったようです。ロチェスターが連れてくる婚約者が、いかにも当時当たり前の女性、つまり金目当てに結婚する、スノビッシュな女性で、おもしろい。したがって、ロチェスターが、この女性をやっつける場面がいきています。ロチェスターは、一度はそうした女性に引っかかったわけです。そのため『家庭教師』としてきたジェーン・エアにほれてしまいます。彼にとっては、まったく新しいタイプの女性だった、というわけです。婚約者を捨てて、家庭教師に走る、というのはなんとなく「サウンド・オブ・ミュージック」を連想します。
上流階級と呼ばれる階級に生まれても、社会の偽善や虚栄に我慢できないタイプのイギリス人が、しばしば「エキセントリック」と呼ばれる人たちを生み出します。こうしたタイプは、アラビアのロレンスや、千一夜物語を訳したバートンのように、長い期間、インドやアラビアで過ごし、ますますイギリス本国に我慢できなくなりますが、このロチェスター氏も、突然、どこかへいってしまうかと思えば、ぜんぜん、帰ってこないという男性という風に描かれています。
こういう男性には、ジェーン・エアのように「すべてを許す」forgiveness
タイプの女性でなければ、安心できない。最後のシーンがとても美しい映画です。
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★ 岸仁美のシネマ・レジェンド
★ 松永太郎のシネマ・レジェンド
第1回 『モロッコ』、
第2回 『ニノチカ』、
第3回 『桑港』、
第4回 『嵐が丘』
第5回 『素晴らしき哉、人生』、
第6回 『哀愁』、
第7回 『我等の生涯の最良の年』
松永 太郎(まつなが たろう) プロフィール
翻訳家。主な訳書にケン・ウィルバー「進化の構造」(春秋社)、ドン・ミゲル・ルイス「四つの約束」(コスモス・ライブラリー)、
ケヴィン・アンドリュース「イカロスの飛行」(みすず書房)など。文学・歴史・映画に造詣が深い。
レギュラー番組 『太郎の書斎』放送開始!!!