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スペシャルコラム

松永太郎のシネマ・レジェンド

第11回 『三人の名付け親』
監督・製作:ジョン・フォード
製作:メリアン・クーパー
原作:ピーター・B・カイン
出演:ジョン・ウェイン、ペドロ・アル・メンダリス、ワード・ボンド ほか
三人の名付け親  この映画は、すでに五回もリメイクされ、しかも主演がジョン・ウェイン、監督がジョン・フォードです。まさに映画のクラシック(古典)の何ふさわしいでしょう。ここでは、まったく新しく見た一人として、すでに語りつくされている、この映画について、思うままに、書いてみたいと思います。
 最初の音楽「ラレードの大通り」を聴けば、なんとなく涙が出てくるのが、子供のころから西部劇で育った(すでに、ぼけかけているかもしれない)年配の特権です。「お前の格好から、カウボーイと見た」という貸しからはじまって、「だから太鼓をゆっくり鳴らせ」という歌詞を思い出して、泣いているわけです。団塊の世代は、このような西部劇で育ちました。すみませんですね。
 ジョン・フォードの西部劇は、「アメリカの神話」です。そのような「アメリカの神話」に浸されて育ったのが、日本の団塊の世代です。もちろん、ジョン・フォードが作った「アメリカの神話」は、市民的なキリスト教を根底にしています。アメリカという国は、「キリスト教」の厳格な意味での「なになに派」というよりは、このような「市民的なキリスト教」が、社会の基本的なモラルを形成している、と聞いたことがあります。一方で、日本社会のモラルを形成していたのは、神・仏の習合的な宗教という説を合わせると、この話は、納得できます。「市民的なキリスト教」と日本的な神・仏の習合的な宗教の間に、それほど大きな違いは、ないようです(これは、大変な問題ですが、ここでは触れないでおきます)。
 アメリカと日本の社会における実際のモラルは、ポスト・モダン以降、まったく崩れてしまいましたが、核心となる部分は、そんなに弱いものでもない、とも、考えられます。ポスト・モダンで、モラルが崩れても、このような映画を見ると、神話的・宗教的な部分を感じることが出来る、というのは、そのためです。基本的には、そんなに変わっていないのです。
 というわけで、涙あふれる、この映画は、アメリカ映画の一番いいところである、人間の善性を信じる、というポイントを描いています。「人間の善性」を信じるのが、アメリカ的な「イノセンス」(無垢または無邪気)です。それが、未だ荒らされたことのない原野、どこまでも続く平野、そして無意識的に、男性性をあらわす鉄道(処女地を切り開く)など、さまざまな神話的な象徴が多用されます。西部劇では、女性は常に「ホア」(売春婦)として描かれます。「イノセンス」を汚すもの、として。
 「三人の名付け親」は、おそらくクリスマスに上映されたでしょう。子供父親は、映画の中にも登場しない、ひどい人間として描かれます。三人とは、キリストの生誕にやってくる東方の賢者です。
 アメリカや日本では、ポスト・モダンは、サヨク的な「脱モラル」なものと受け取られました。私たちは、ジョン・フォードとともに、ただ人間の全盛を信じましょう、と主張するわけにもいきません。そうかといって、そのようなものはなにもないという主張にも、賛同するわけには行きません。この映画は、そういう意味では、ものすごくおもしろいのです。

『三人の名付け親』の番組詳細はこちら
岸仁美のシネマ・レジェンド
松永太郎のシネマ・レジェンド
第1回 『モロッコ』第2回 『ニノチカ』第3回 『桑港』第4回 『嵐が丘』
第5回 『素晴らしき哉、人生』第6回 『哀愁』第7回 『我等の生涯の最良の年』
第8回 『ジェーン・エア』第9回 『紳士協定』
第10回 『美女ありき』
松永太郎(まつながたろう)
松永 太郎(まつなが たろう) プロフィール
翻訳家。主な訳書にケン・ウィルバー「進化の構造」(春秋社)、ドン・ミゲル・ルイス「四つの約束」(コスモス・ライブラリー)、ケヴィン・アンドリュース「イカロスの飛行」(みすず書房)など。文学・歴史・映画に造詣が深い。
レギュラー番組 『太郎の書斎』放送開始!!!

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